2022年末よりスタートした「リアルゼミ」の記念すべき第1回は、大阪・吹田にある大和大学を会場として実施されました。
今回はそのリアルゼミから、最後に実施されたパネルディスカッションに登壇された国際大学GLOCOMの豊福晋平先生、京都橘大学の池田修先生、吹田市教育センター所長の草場敦子さんの3名のお話の概要をお届けします。(ご所属は登壇時当時)。
今後のDC「リアルゼミ」にぜひ参加されたい方、オンラインで視聴されたい方は、研究会のイベント予約サイト(無料)であるPeatixをぜひフォローください。
吹田市教育センター 草場敦子所長の講演
まずは草場敦子所長から、吹田市が挑戦しているGIGAスクール構想とデジタル・シティズンシップ教育について、「挑戦、覚悟と責任」をテーマとしたお話がありました。
草場所長はまず、吹田市の教育理念にとして「持続可能な社会を作り出す力を持つ子どもたちを育てる」ことを掲げていると述べました。この理念の下、特にメタ認知力や共感力を育むことを重視しており、教職員研修などを通じて市全体での取り組みを強化しているとのことです 。
さらに、GIGAスクール構想について令和元年度から現在までの進捗を紹介し、PDCAサイクルを用いた具体的な成果や課題に言及しました。「デジタル社会では、子どもたちがアウトプットする力を身につけ、問い続ける力を育む必要があります」と草場氏は語り、教育の目的を「単なるICT機器の利用」ではなく「社会的な実践力の育成」に置いていることを強調しました。
この中で草場所長は、デジタル・シティズンシップ教育が果たす役割について「子どもたちはすでにデジタル社会の住人であり、ICT機器を適切に活用し、自ら考え行動する力を育むことが不可欠」と述べ、吹田市全体として取り組んでいるデジタル・シティズンシップに関するの取り組みを紹介しました。
具体的には吹田市で策定した「ICT教育グランドデザイン」の中にデジタル・シティズンシップ教育を取り入れた背景を説明し、この取り組みを「9年間の義務教育を通じて、持続可能な社会の作り手を育てる教育」と位置づけました。具体的には、「情報モラル教育」の先を目指す形で、子どもたちが自らの行動が社会に与える影響を理解する教育を重視。例えば、授業では、ネット上の発言が他者にどのような影響を与えるかについて話し合うことで、責任感や倫理的思考を育む内容を展開しています 。
市内の学校間での格差を解消することも重要な課題の一つとして挙げられ、草場所長は「教育現場での実践例を全校で共有し、教職員全体のスキルアップを図るための研修を強化している」ことにも言及。さらに、各学校の授業訪問を通じて現場の課題を直接把握し、それに応じたサポートを提供することが成果を生む鍵であると語りました。「デジタル・シティズンシップ教育は人権教育そのものであり、子どもたちがより良い未来を創造するための基盤」として、講演を締めくくりました 。
京都橘大学 池田修先生の講演
池田修先生は、「国語教育とGIGAスクール構想、情報モラル」という3つの要素をどう組み合わせるかについて述べ、「学びのOS」という概念を提示。このOSは、子どもたちが主体的に学び続けるための基盤となる考え方であり、国語教育を核としながらデジタル時代に必要な能力を育成する取り組みだと説明しました 。これは「国語教育とICTは相性がいい」という池田先生の考え方が、根底にあるから、とのことです。
池田先生はさらにデジタル・シティズンシップ、情報モラルと情報倫理の区別を明確にしながら、教育の新たな地平を開く必要性について説明。「情報モラルはルールや規範に焦点を当てますが、情報倫理は『なぜその行動が適切なのか』を深く考える力を育てます」と述べ、哲学的な思考を伴う教育が、これからの社会で必要不可欠であると主張しました 。
特に注目されたのは、デジタル・シティズンシップ教育を教科横断的な学びとして捉えるアプローチです。池田先生は、デジタル社会において国語教育の枠を超え、数学や理科、社会科といった他教科とも連携させながら、生徒に「社会的文脈の中で情報を評価し活用する力」を育むべきだと提案。このような学びを通じて、生徒は単なる情報消費者ではなく、社会の一員として自ら考え、行動する力を身につけることが期待されています 。
池田先生はまた、現場での実践として、デジタル・シティズンシップ教育を深めるための具体的な方法論として国語の授業において「言語活動を通じて物語の内容を深く理解させ、それをデジタルツールで表現する取り組み」を例に挙げました。この方法では、生徒がICTを使って学びを創造的に深めると同時に、デジタル技術の責任ある活用を自然に身につけることができると説明しました 。
あわせてデジタル・シティズンシップ教育の成功には、「教員自身がICTに慣れ親しみ、効果的な授業をデザインできるスキルを持つことが欠かせない」とも述べました。この点については、教員研修の充実や、学校全体での取り組みの共有が必要であるとし、現場での実践を通じて得られるフィードバックを活用することが効果的だと提案しました。
ファシリテーター 豊福晋平先生の発言
豊福晋平先生は、パネルディスカッション全体の議論取りまとめつつ、基調講演でも鹿野利春教授も言及された「カリキュラムマネジメント」の考え方から、国語教育とデジタル・シティズンシップについて草場所長、池田先生と対話しながら整理をしていきました。デジタル・シティズンシップ教育をカリキュラムマネジメントの枠組みでどう位置づけるかについては、「カリキュラムマネジメントの要は、縦割りの教科構成を超えた統合的な学びの設計にある」と述べ、この縦割りを打破するためにデジタル技術の教育への統合が不可欠であると述べ、この点においてデジタル・シティズンシップ教育が果たす役割が大きい点を強調しました。
豊福先生はさらに池田先生が言及された「情報モラル」と「情報倫理」の違いについても踏み込み、情報倫理を哲学的思考に基づく行動指針として捉える視点を提供しました。「デジタル・シティズンシップの土台には、単なるルール遵守ではなく、なぜそれが必要なのかを問い続けることが重要」と強調し、学校教育だけでなく、課外活動や地域社会との連携を通じて、子どもたちがデジタル社会での自己表現や責任ある行動を学ぶ機会を広げることの必要性も指摘しました。
さらに、豊福先生は「社会全体がデジタル・シティズンシップを支える共通の価値観を持つことが重要」と述べ、行政や地域社会との協力を通じて、この教育を広めるための具体的なアプローチを示しました。加えて、デジタル技術の活用が単なるツールとしてだけでなく、社会的・文化的な成長を支える教育の重要な一部であるという指摘をした上で、池田先生が述べた「子どもたちが主体的に学び続けるための『学びのOS』を構築することが私たちの使命」と述べ、パネルディスカッションを総括しました。
本当はこの講演のフルバージョンをお届けしたいところでもあるのですが、今後、アーカイブを有償で配信することも検討しております。本概要記事を興味が出てきたという方は、JDiCE事務局までご相談ください。